きっかけの事件を乗り越え、私の恋愛戦略が軌道に乗り始めた。
私はさらに追加の一手を打つため、本命の女「小泉美咲」とは別の女性に手を出すことにした。
小泉美咲が私のことを何とも思っていなかったとしても自分に惚れているはずの男が別の女に手を出すところを見たら、多少なりとも動揺、嫉妬するのではないかと考えた。
狙いを定めたのは期間従業員で任期終了間際の30代の女性、四辻 瑛麻だった。
彼女は2ヶ月後に契約期間が満了し退職する。恋人もいないようだし、30代中盤であまり魅力的ではなかったので、私の誘いに乗ってくるだろうと踏んだ。
彼女の送別会をするという口実で彼女を焼肉デートに誘いだした。
誘った時、彼女はものすごく喜んでいた。
私も期間従業員で期間満了退職した経験はあるが、あれは寂しいものだ。
自分から辞めるわけではない。
まだ働きたいが働かせてくれない。
他の人は働き続けるのに自分だけ辞めていかなければならない。
自分がお払い箱になった後も会社は何事もなかったかのように回っていく。
私は今の彼女の気持ちがよくわかるので、送別会をしてあげたら喜ぶだろうということは分かっていた。
焼肉デートはうまくいった。
そして今度また一緒に夜釣りに行く約束をし、こちらの連絡先を渡し、後で彼女の連絡先を私に渡してくれると約束した。
職場は機密保持のため、スマホは持ち込み禁止なので、まだ連絡先を交換していなかった。
しかし、焼肉デートの後、彼女の退職日の2日前から、彼女の態度が突然変わった。
話しかけてもそっけない態度を取り、しまいには些細なことで怒るようになってきた。
本気で怒っているというよりは私に怒っているぞというアピールをしている感じだった。
退職したら連絡が取れなくなるから、早く連絡先を教えてくれと私が言っても彼女は無視した。
最初は彼女の行動の意味がわからなかった。
自分は言葉に気をつけるタイプだから、彼女の気に触るようなことを言ったということは絶対にない。
焼肉デートにはすごい乗り気だったし、喜んでいたはずだ。
嫌われたのではない。
明らかに彼女は何かに対して不満を持っており、これは彼女なりのメッセージなのだ。
しかし肝心の何に対して不満があるのかということについては分からなかった。
よくある恋愛指南本には女は本当に自分のことが好きなのかどうか試すため、わざと男に冷たく当たることがあると書いてあったりする。
そういうこともあるだろう。
が、今回はどうしてもそれだけでは説明できない気がした。
結局連絡先を聞かないまま、彼女は退職し、そのまま音信不通になった。
彼女に手を出して小泉美咲に揺さぶりをかけつつ、退職した彼女をセフレにしてテクニックを磨こうと思っていたが、その計画は崩れた。
私は彼女が怒っている理由がしばらくわからないままだった。
しかし、時間が経つにつれてこれではないかという思い当たる理由が1つ浮かんできた。
私は職場の同僚の目のつかないところで、こっそりと彼女を誘った。
仕事中に女の子を追いかけ回してると周りに思われるのも少し問題だと思ったし、そもそも他の人が見ている前では何か誘いにくい気がした。
それでも焼肉デートは他の人も知ってるし、結局噂話で小泉達の耳にも入っていたので、それでも十分効果があった。
古川は焼肉デートの件を聞いて憤慨していた。
しかし彼女は他の人の前で特に同僚女性のライバルたちの前で堂々と自分のことを誘って欲しかったのではないだろうかと今では思っている。
彼女にとっては恋人を作るということと同じぐらい、他の同僚を見返すことが大事だったのだ。
そう考えた理由は別にもある。
これよりさらに数ヶ月後 小泉美咲をデートに誘った時彼女は古川も一緒でなければ嫌だと言ったのだ。
2人でデートに行くのが少し不安で、友達の女の子も誘いたいということはよくあることだが、それが古川となると話がだいぶ変わってくる。
私に気がある古川の前で小泉美咲を口説くのはさすがにまずい。
偶然に口説いているところを見られた、というのならともかくわざわざデートに誘って目の前で、というのは少しひどすぎる。
小泉はなぜ古川を誘いたいと言ったのか、明らかにマウントを取りたいという気持ちがあったはずだ。
「あなたの好きなこの男から私は口説かれているのよ。」ということを見せつけるつもりだったはずだ。
そうでないなら別に古川でなくても良かったはずではないか。
この件を経験してから、私は女には自分が男から言い寄られているということを他の女に見せびらかしたいという欲求があることを確信した。
女がほかの女にマウントを取ることで喜びを感じるというならその習性を利用しない手はない。

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